パドルカード技術を使用した細線同軸ケーブルハーネスのSI性能改善
背景
インフラストラクチャー通信機器やサーバー、スイッチなどの通信機器は、エンタープライズ市場において益々、 高速伝送化が進んでいます。その為、これらのシステムで使用される各部品のシグナルインテグリティ(SI)性能を向上させる必要があり、そのSI性能の向上は機器の性能を向上させる役割を担っています。課題は、従来の基板伝送では挿入損失が大きく、伝送距離が限定されることです。その解決策としてケーブルを用いたジャンパーハーネスが注目されています。図1は、ASICからI/Oまでの従来の基板伝送を示します。図2はASICからI/Oへのジャンパーハーネスでの伝送を示します。このソリューションでは、ヒートシンクの下に配置できる低背のコネクタを使用し、I/Oコネクタへ直接ケーブルで接続することにより基板伝送を最小化し伝送ロスを低減することが可能となります。
課題
前提としてコネクタの製品高さを低くしつつ伝送損失を改善する必要が有ります。コネクタを低くする理由はコネクタをヒートシンクの下に配置し、図2の様にASICに近づけることで伝送ロスの低減が可能だからです。伝送速度は64Gb/sのPAM4(周波数16GHz)を想定します。
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従来の細線同軸コネクタ品では、13GHz付近までの伝送品質に問題は有りませんでしたが、17GHz付近にて共振が発生し伝送品質が悪化します。表1,2に従来製品の近端クロストーク(NEXT)と遠端クロストーク(FEXT)を示します。また赤丸部は共振点を示します。
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共振周波数は、グランドパスの距離によって発生する周波数が変化します。波長λが長くなれば、共振周波数は低周波で発生し、逆に波長λが短ければ、共振周波数は、高周波で発生します。図3は、従来製品のプラグとリセの嵌合状態の構造を示します。コネクタの構造上、グランド経路を容易に設定する事が出来ません。ケーブルと端子のグランド経路はグランドフィンガーで接続されています。緑色の部分が共振エリアです。
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対策
従来のプラグコネクタをパドルカード(FPC)へ変更することで、グランドパスを容易に設置することが可能となります。よってグランドパスの強化に繋がり、共振エリアを短くすることが出来ます。
パドルカードとは?
パドルカードとは、FPCや基板の事を指します。パドルカードは、グランドパスを簡単に追加出来てグランド性能を改善します。インピーダンスマッチングが簡素化され、高周波でのシグナルインテグリティが向上します。図4は、従来の極細同軸ハーネスの外観を示し、図5はパドルカード付き品の外観を示します。
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パドルカードを使用することで、信号線幅を特定の要件に合わせて調整することが出来て、特性インピーダンスを簡単に調整する事が可能となります。図7は、パドルカードに接続された細線同軸ケーブルの状態を示します。
パドルカードとケーブルの接続方法はハンダ付けです。パドルカードの端子の幅は、レセプタクルとの嵌合の為に広く取る必要が有りますが、特性インピーダンスをコントロールする為、非接触部分の端子幅を狭くします。
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効果
伝送特性シミュレーション条件
- 解析ソフト: Ansys HFSS 19.0
- 周波数: 0-40 GHz
- ケーブル: 細線同軸ケーブル、AWG #36, 42.5 ohm
- ケーブル長: 254 mm (10 inches)
- コネクタ両端付き
- ピンアサインメント: GSSGSSGSSG (G: Ground, S: Signal)
・特性インピーダンスの改善
従来品は、73~94 ohmに対し、パドルカード品は84~87 ohmへ改善された。表3は従来品とパドルカード品の特性インピーダンスの比較を示します。
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・NEXT、FEXTの改善
パドルカード製品の共振周波数が17GHzから33GHzにシフトした。これにより25GHz帯までの伝送が可能となった。表4と5は、従来品とパドルカード品のNEXTとFEXTの比較です。赤丸は共振点を示します。
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・IL、RLの改善
特性インピーダンスを改善することでILおよびRLも改善した表6,7は従来品とパドルカード品のILとRLの比較を示します。
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まとめ
従来品からパドルカード品へ変更することによりSI性能の向上が確認されています。サーバーやスイッチの機器等において、内部スペースが限定されるレイアウトでは、SI性能が良く且つコネクタ製品高さが低いパドルカード品は有効なソリューションとなります。
CABLINE®-CAP製品ページ: https://www.i-pex.com/ja-jp/product/cabline-cap