シールドコネクタを活用した ペア内スキューにて引き起こされたEMIの軽減技術
はじめに
電気信号が伝送される経路は、システムの電磁両立性を助けることもあれば悪影響を及ぼす場合もあります。一般的な経路には、PCBトレース、コネクタ、ケーブルなどがあります。ペア内スキューがどのようにEMIを引き起こすかを知るには、まずEMIを定義する必要があります。
EMIとは何か?
EMI(Electromagnetic Interference)とは電磁干渉の略で、外部ソースから発生する電子回路内の不要なノイズのことです。EMIは、発生源から影響を受けるデバイスまでさまざまな経路を辿る可能性があります。一般的な伝導経路は空間放射と導体伝導の2種類があります。空間放射型の電磁干渉は、電子機器が無線周波数(RF)信号を発生させ、それが拾われて不要な影響を引き起こす場合に発生します。導体伝導型の電磁干渉は、意図しないエネルギーが信号ケーブルやPCBトレースを経由して発生源から伝導される場合に発生します。
一般的なノイズ発生源にはアンテナ、RFチップ、電源などがあります。EMIの弊害には、規定されている放射試験に不合格になることや、近隣のアンテナ感度に影響を与えることなどがあります。
EMI要件の進化
過去40年間で、EMIの要件は進化してきました。1985年、クレイは世界で最もパワフルなスーパーコンピューターを作りました。現在では、その計算能力はスマートフォンに搭載されています。1980年代には、典型的なコンピューティング・システムには金属ケースからなるシステム・レベルのシールドで十分でした。現在のコンピューティング・システムは手持ちサイズに小型化され、外部ケーブルはカットされ、放射素子(アンテナ)が機能として意図的に追加されています。そのため、放射箇所を互いに隔離するために、コンポーネントレベルでのシールドが必要になりました。
ケーブルアッセンブリとEMI
前述したように、ケーブルアッセンブリは、今日の電子機器における電気信号通信における一般的な手段です。ケーブルアッセンブリがEMIにどのような影響を与えるかを知るためには、ケーブルアッセンブリの構成要素、すなわちケーブルの構造と両端のコネクタを知ることが必要です。
シールドされていないケーブルには、ディスクリートワイヤーとツイストペアの2種類があります。
どちらも導体の周囲にシールドがないため、EMI放射を防ぐことはできません。
シールドケーブルは導体にシールドを巻くことでEMIを軽減します。一般的な例としては細線同軸ケーブルとシールド付きツイストペアがあります。
導体のシールドはケーブルからの直接的な放射の抑制に役立ちますが、差動ペア内のミスマッチもEMIを悪化させます。このミスマッチはペア内スキューの原因となります。
ペア内スキュー
ペア内スキュー(P/Nスキュー)とは、差動ペア内のプラスとマイナスの信号線間のタイミング差のことで、電気的な長さの不一致や不均等な伝搬遅延によって生じます。
P/Nの長さが著しくミスマッチしたケーブルアッセンブリは、差動ペアの長さがマッチしたケーブルアッセンブリよりも大きな電界(E-フィールド)を発生します。以下は、細線 同軸ケーブルとシールドなしコネクタを使用したケーブルアッセンブリのEフィールドプロットのシミュレーション結果比較です。左のプロットは長さがマッチした差動ペアであり、右のプロットはペア内に4mmのミスマッチがあります。長さのミスマッチはペア内スキューを引き起こし、より大きなEフィールドをもたらします。
E Field [V/m] |
Matched Length | Mismatched Length-4mm | |
---|---|---|---|
Cable assembly with micro-coaxial cable and an unshielded connector |
シールド付きコネクタは、EMIを軽減するために、このEフィールド発生の抑制に役立ちます。しかしシェルやシールドのあるコネクタであれば何でも良いというわけではありません。E-フィールドを抑制するためには、シールドがシグナルコンタクトを完全に囲む必要があります。I-PEXではZenShield®という技術を用いて、様々なコネクタ製品にEMIシールドを施しています。
フルシールドされたZenShield®コネクタ
以下の3つの特徴を持つコネクタをZenShield®対応品として取り扱っております:
- 信号端子の接点部だけでなく基板実装部(コンタクトSMT部)まで全体がコネクタシールドで覆われている
- PlugとReceptacleのシールド同士が多点で適切にグランド接続されている
- コネクタシールドが基板(FPCコネクタの場合はFPC)にも多点で適切にグランディングされている
ZenShield®コネクタはEフィールドがコネクタの外部に漏れるのをブロックします。下図に示すように、左側のシールドなしコネクタからはEフィールドが自由に放射されます。右側のZenShield®コネクタは不要な放射がコネクタ外部へ漏れるのを遮断します。
ペア内スキューによるEMIのシミュレーション
ZenShield®コネクタがペア内スキューによるEMIを軽減することを示すため、以下の条件でシミュレーションを行いました:
- 細線同軸ケーブルアッセンブリの両端にシールドなしコネクタを使用
- 細線同軸ケーブルの両端にシールドコネクタを使用
- いずれのケーブルアッセンブリも以下のそれぞれの長さでのミスマッチ条件でシミュレーション:
a. P/Nミスマッチなし
b. 1mmの小さなP/Nミスマッチ
c. 4mmの大きなP/Nミスマッチ - すべてのシミュレーション条件で10Gbpsの差動入力データを使用
- Eフィールドプロットはコネクタ上0.5mmで測定
シミュレーション結果では、10Gbpsでの実効ペア内スキュー(EIPS)は、条件3(a)のP/Nミスマッチなしが0.2ps、条件3(b)のP/Nミスマッチ小が1mmが3.5ps、条件3(c)のP/Nミスマッチ大が4mmが16.6psでした 。
Condition | Skew (ps) |
---|---|
No P/N mismatch | 0.2 |
Small P/N mismatch of 1 mm | 3.5 |
Large P/N mismatch of 4 mm | 16.6 |
ミスマッチは差動から共通モードへの変換データでも明らかでした。ミスマッチが大きいほどモード変換は大きくなります。これは差動ペアが不均衡であることから予想された結果です 。
シールドなしコネクタとシールド付きコネクタのEフィールドプロットを比較すると、ペア内スキューがEMIに与える影響が大きく、シールド付きコネクタを使用するメリットがあることがわかりました。
下図の左から右へミスマッチが大きくなるにつれて、シールドなしコネクタを表す表の上段ではEフィールド強度が大きくなっているのがわかります。しかしシールド付きコネクタの結果を示した下段では同じ現象は見られません。これは、EフィールドがZenShield®コネクタ内に抑制されているためです。これは図14に示すコネクタの側面図で確認できます。
E Field [V/m] |
Matched Length | Mismatched Length-1mm | Mismatched Length-4mm | |
---|---|---|---|---|
Unshielded Connector (CABLINE®-CA) |
||||
ZenShield® Connector (CABLINE®-CA II) |
E Field [V/m] |
Matched Length | Mismatched Length-1mm | Mismatched Length-4mm | |
---|---|---|---|---|
Unshielded Connector (CABLINE®-CA) |
||||
ZenShield® Connector (CABLINE®-CA II) |
結論
このホワイトペーパーに記載されているテストでは、ZenShield®コネクタはペア内スキューによって引き起こされた EMI を軽減し、ケーブル長の不一致に対する製造および組み立て公差のマージンを追加で持たせる 理想的なソリューションであることが明らかにされています。