I-PEX独自のノウハウを活かしたFPCコネクタ(MINIFLEX®シリーズ)の空閉じ対策

コンテンツ


 

背景


各コネクタメーカーではお客様の現場でコネクタがどのように使用されているかを想定し、それぞれの取扱い上の注意点やルールを設けてお客様に使用いただいております。十分に注意して扱っていても、使用現場にて接続不良や不完全嵌合などの事例が多く挙げられます。その中でも「空閉じ」製造組立現場でよく起きる事象として広く知られております。空閉じはコネクタにFPCを挿入せずにアクチュエータを操作する事であり、その後FPCを挿入する際にコネクタが破損したり嵌合が不完全な状態が発生する原因になります。お客様の製造現場では様々なシチュエーションが想定でき、不慣れなオペレーションやブラインドメイトによるFPC未挿入状態でアクチュエータをロックするケースが多く挙げられます。その後、製造現場の検査過程で発見できれば良いですが、空閉じによる不具合が発生した状態で最終品まで行ってしまうケースも考えられます。その場合、変形したコネクタ若しくはFPCが市場で問題を起こす恐れもあります。

本稿ホワイトペーパではこの「空閉じ」について、I-PEXのMINIFLEX®シリーズを例に、どのような対応策が成されており、例え空閉じが発生してもコネクタとして機能する為の分析や計算による設計ノウハウを紹介します。

 

課題


前提として、コネクタの使命は全てのエレクトロニクス関連機器が動作するあらゆる環境下で、信号や電流を安定してつなぐことです。例えばFPC未挿入状態でアクチュエータの開閉操作を数回行っても、接触信頼性を損ねないことが必要と考えます。では、実際にFPC未挿入状態でコネクタのアクチュエータを閉じてしまったら、つまり空閉じをしてしまったらどのような変化、不具合が起きるのでしょうか。FPC未挿入状態でアクチュエータの開閉操作をしてしまった場合、コネクタに組込まれたコンタクトの形状が変形することによりFPCとの接点部であるコンタクト間のGAPに変化が生じます。その結果、FPC挿入時に不適切な状態になりやすく、不導通や接続不良が起こることがあります。

代表的な例として、コンタクトが変形した状態(GAPが狭まった状態)でFPCを挿入しようとすると、座屈 (注釈1:スタビング)現象を起こしてしまう可能性があります。(図1:参照)座屈が起き接続不良状態が発生してしまうとコネクタとして機能しません。

 

注釈1 :コンタクトの先端がFPCにぶつかり変形、不具合を起こす現象(図1:右図参照)

Left: Initial state Right: Buckling state
左:初期状態 右:座屈状態
図1:空閉じ後コンタクトが変形し FPC と干渉して不具合を起こす

 

対策/解決策


I-PEXのFPC/FFCコネクタ(MINIFLEX®)は「空閉じ」が起こってしまっても通常通りのコネクタとして機能する工夫がされております。その工夫の裏には3つのノウハウと、3つの検証結果から構成されたコネクタ設計をしているので詳しく紹介します。

 

ノウハウ ①

- 公差解析にて空閉じによるコンタクト部塑性変形の許容量を検証。

空閉じにより変形したコンタクト先端(図2:参照)が、ハウジングリブから下がって飛び出していなければFPC挿入時の座屈は起こりません。コンタクトの塑性変形量がどの程度許容されるかの公差解析を二乗和平方根(表1:参照)にて実施します。

Figure 2
図 2

 

ハウジングとコンタクトの個部品の寸法公差から、ハウジングリブとコンタクト先端ラップ量を算出します。その結果の最悪値(MIN値)がコンタクトに設けられる塑性変形量の許容値になります。

Contact Housing Contact Housing_Right

 

コンタクト ハウジング

 

表 1
X (コンタクト) 0.71±公差 A
Y (ハウジング) 0.61±公差 B

(ハウジングリブ-コンタクト先端)
ラップ量

X - Y = 0.71-0.61 ± √(A^2 + B^2) = 0.10 ± C
最悪値(Min 値) 0.10 - C

 

Figure 3
図3:赤線四角枠内ハウジングリブ(ハイライト部分)から、コンタクトの変形によりコンタクト先端が下がって飛び出してしまう場合、スタビングが起こる可能性があるので、コンタクトの塑性変形量(デザイン)の変更が必須となります。

 

ノウハウ ②

- 解析にてコンタクト接点部の変位量と接圧の関係(P-δ曲線)を検証。

続いて、顧客要求のサイズ/スペースに合うコンタクト形状をモデリングした後、解析にて接点部の変位量と接圧の関係(P-δ曲線)をグラフ化します。(図4:黒線)そのグラフ中に個部品の寸法公差にて公差解析をした接点部の変位量の範囲をプロットし接圧を確認します。(図 4:赤線)最低接圧が社内基準に満たない場合、接点部の変位量を増加させる、もしくは P-δ曲線の傾きが大きくなるような形状の検討等を実施します。

図:4 コンタクト接点部接圧/接点部変位量
図:4 コンタクト接点部接圧/接点部変位量

 

ノウハウ ③

- 解析にて「空閉じ」による塑性変形量を検証。

変位量に使用する寸法公差範囲は、コンタクトのアクチュエータ側(図5:黄色矢印)のGAP寸法とアクチュエータカム寸法にて計算を行います。②で決定したコンタクト形状の空閉じによる塑性変形量を解析にて確認します。アクチュエータ側コンタクトの荷重と接点変位量の関係から、接点部の塑性変形量を確認します。(図6:参照)
その結果が①で求めた塑性変形量の許容量を超える場合は、実際に空閉じをしてしまうとコンタクトがハウジング部より飛び出してしまい、スタビングが発生する可能性がある為、再度設計等を実施します。

Figure 5
図5
図6:アクチュエータ側荷重/コンタクト接点部変位量, 塑性変形量
図6 :アクチュエータ側荷重/コンタクト接点部変位量, 塑性変形量

 

上記、I-PEX独自のノウハウや技術力を駆使し分析や解析を行い、空閉じ対応可能コネクタのデザインを決めます。ここで重要なのはコンタクトの変形量と接圧のバランスで、接圧、接触信頼性を保つために変位量を大きくしFPCに追従するように 柔軟な設定にすると、空閉じが発生した際に、前出した例のように変形したコンタクト先端がハウジングリブより飛び出て、スタビングが発生し接続不良になる可能性が高まります。

一方、空閉じ対応を考慮しコンタクトの変位量を少なく設定すると、アクチュエータの開閉操作をしてもコンタクトの変位量が少なく適切な嵌合状態が保持出来なくなり、接触信頼性が低下しこちらもまた不導通や不良になりえることが考えられます。上記の①~③(順不同)の項目を確認し、空閉じ対策のなされたコネクタのデザインを完成させていきます。その後、コネクタの製造工程に於き、下記の3つの項目を設け検証を行っていきます。

1: 空閉じ(FPC未挿入状態でアクチュエータ操作)後のコンタクト変化量を確認。
※アクチュエータ操作回数(横軸)/コンタクトGAP(縦軸)

contact gap graph
「空閉じ」をしても0.007mmのコンタクト変化量
「空閉じ」をしても0.007mmのコンタクト変化量

 

2: 空閉じ(FPC未挿入状態でアクチュエータ操作)後のFPC挿入力変化量を確認
※アクチュエータ操作回数(横軸)/挿入力(縦軸)

insertion force graph
「空閉じ」をしても初期状態とほぼ同等の挿入力
「空閉じ」をしても初期状態とほぼ同等の挿入力

 

3: 空閉じ(FPC未挿入状態でアクチュエータ操作)後のFPC保持力(摺動痕)の確認。
※アクチュエータ操作回数(横軸) / FPC保持力(縦軸)

Retentionforce graph
「空閉じ」をしても初期状態とほぼ同等の保持力
「空閉じ」をしても初期状態とほぼ同等の保持力

 

効果


空閉じ= FPC未挿入状態でアクチュエータを操作する事象が起こったとしても、コネクタとしての機能を維持する事で、不導通や接続不良を低減することが可能となります。実際にこの空閉じ対策は、製造現場における複数回の開閉作業が伴うテストオペレーションにも有効であり、多くのお客様にとって有用なソリューションとなっています。

 

まとめ


以上のように、設計工程の一つ一つには、高度に洗練されたI-PEX独自の設計ノウハウが必要で、社内でのコア技術に対して日々進化と磨きをかけています。
また、コネクタ製造現場では、精密な基準(クライテリア)を定めることで品質を確保し、いかに優れた製品を生み出すかに注力しています。本稿ではその取り組みについてご紹介しました。