コネクタの嵌合方向について

コネクタには様々な種類があり、使用する際には用途に対して最適なコネクタを選ぶ必要があります。今回は電子機器の内部接続に使用される様々な種類の小型コネクタの中から、嵌合方向の違いについてそれぞれの特長をご紹介します。

PCB基板の信号をケーブル、FFC 、またはFPCなどを介して他の基板に接続する場合、一般的にはコネクタが実装された基板の表面に対して垂直方向にアプローチして嵌合させるコネクタを垂直嵌合(または縦嵌合)コネクタと呼び、水平方向にアプローチして嵌合させるコネクタを水平嵌合(または横嵌合)コネクタと呼びます。

Vertical connector and Horizontal connector
Fig.1 垂直嵌合コネクタイメージ(左)、水平嵌合コネクタイメージ(右)

 

挿入位置の確認


例えば基板にレセプタクルが実装され、プラグを基板側に嵌合させるコネクタの場合、垂直嵌合のコネクタであればレセプタクルの嵌合口が上を向いているため、組立時に上から基板を見下ろした際、嵌合口を目視できプラグの挿入位置を確認し易いと言えます。

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Fig.2垂直嵌合タイプのケーブル対基板コネクタイメージ

しかし、基板対基板FPCコネクタなどの場合、FPCがプラグを覆ってしまうため目視によりプラグを正確な挿入位置に合わせ組み立てることが難しい場合があります。

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Fig.3 垂直嵌合タイプの基板対基板FPCコネクタイメージ

そのような場合、プラグをレセプタクルの上で軽くスライドさせながら指先の感覚で正しい挿入位置を探ることができるコネクタのガイド機能(アライメント性)が重要になります。

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Fig.4 基板対基板FPCコネクタのガイド機能イメージ

 

基板上の配置と他部品のクリアランス


また垂直嵌合の場合、基板上のレセプタクルに対してプラグが上からアプローチして嵌合するため、基板の中央にコネクタが位置している場合でも嵌合作業に大きな影響はないといえます。またコネクタ周辺のクリアランスエリアが比較的狭くコネクタ周辺にも他部品を実装することが可能になることから、水平嵌合タイプに比べ基板設計自由度が高いといえます。

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Fig.5 垂直嵌合コネクタと周辺の他部品イメージ

一方、水平嵌合のコネクタの場合レセプタクルの嵌合口が横を向いているため、プラグは基板表面に対して平行に移動し嵌合させます。そのため嵌合時にプラグの邪魔にならないよう、基板に実装されたレセプタクルの嵌合口付近にはクリアランスエリアを設ける必要があります。

Horizontal
Fig.6 水平嵌合タイプのケーブル対基板コネクタイメージ
Horizontal
Fig.7 水平嵌合コネクタとクリアランスエリアのイメージ

また、低背の水平嵌合コネクタを基板の中央にコネクタを実装すると、嵌合時にFPC/FFCやプラグを保持した指が基板に当たるなどして嵌合作業が難しくなる場合があります。低背の水平嵌合コネクタを基板にレイアウトする際には基板の端にコネクタを配置するなど、嵌合作業を考慮したコネクタ配置が必要になる可能性があります。(※コネクタの正しい取り扱い方法については各製品のInstruction Manualをご確認ください)

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Fig.8 水平嵌合FPC/FFCコネクタにFPCを挿入するイメージ

 

コネクタの高さ寸法とコンタクトの有効嵌合長


コンタクトの有効嵌合長は嵌合方向寸法の影響を受けますので、垂直嵌合コネクタの場合、有効嵌合長は基板面に対して垂直方向の長さ、つまりコネクタの高さ寸法の影響を受けます。スマートフォンやタブレットなどポータブル高性能機器の場合、薄く限られたスペース内に構成部品が高密度に実装されています。そのような機器内では構成部品のサイズも小型で低背であることが求められますが、垂直嵌合コネクタを低背化する場合、コンタクトの有効嵌合長を確保するのが難しくなると言えます。

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Fig.9 垂直嵌合コネクタとコンタクトの有効嵌合長イメージ

水平嵌合コネクタの場合、有効嵌合長は基板面に対して水平方向の長さ、つまりコネクタの奥行寸法の影響を受けます。そのため、垂直嵌合コネクタと比較して、水平嵌合コネクタはコンタクトの有効嵌合長をある程度確保しながらコネクタの低背化を検討しやすいと言えます。

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Fig.10 水平嵌合コネクタとコンタクトの有効嵌合長イメージ

 

低背コネクタの嵌合保持


有効嵌合長が短いということは、コンタクト同士の接触を確保するために必要な嵌合位置の許容範囲が狭いことを意味するので、落下の衝撃などプラグの嵌合位置がずれる要因が発生した場合にコンタクトの接触が得られなくなるリスクが高くなると言えます。コンタクトの接触信頼性を向上させる方法の1つにフリクションロックやメカニカルロックなどのロック機構によってプラグとレセプタクルの嵌合保持力を強化することで嵌合位置ずれを抑制することが挙げられます。

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Fig.11 垂直嵌合コネクタのフリクションロック例

また垂直嵌合コネクタの保持力を補う方法の1つとして、コネクタ上部に適切なクッション材を付加することで、製品筐体を被せた際にクッション材がコネクタを適度に押えつけ、嵌合位置ずれを抑制する方法がとられる場合もあります。特にポータブル機器のような持ち運び時などの落下による衝撃が予想される小型製品などで検討される場合があります。(※ただし、コネクタに対して過度な圧力を加えることは破損の原因にもなるため注意が必要です。)

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Fig.12 製品筐体とクッション材が垂直嵌合コネクタの嵌合を補助している断面イメージ

 

挿入力の影響


垂直嵌合コネクタはプラグを基板に向かって挿入することで嵌合するため、挿入力の高い垂直嵌合コネクタの場合、コネクタ嵌合時に基板に過度な圧力を与えてしまう可能性もあります。そのためパネルと一体となったモジュール基板など圧力をかけることに適さない基板を組み立てる場合は、基板に影響が起こらない程度に挿入力の低い垂直嵌合コネクタを選定するか、基板を押しても変形させない組立環境を整える、または水平嵌合コネクタを使用するなどの対策が必要となります。

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Fig.13 挿入力の高い垂直嵌合コネクタを嵌合するイメージ

 

垂直嵌合・水平嵌合コネクタの特長まとめ


垂直嵌合(縦嵌合)コネクタ 水平嵌合(横嵌合)コネクタ
水平嵌合コネクタに比べ、コネクタ周辺のクリアランスエリアが狭い、基板の設計自由度が高い。 嵌合口付近のクリアランススエリアが比較的広くなってしまうため、基板上にデッドスペースが生まれやすい。
基板中央部分にコネクタを実装した場合でも、嵌合作業への影響は少ない。 低背小型コネクタの場合、基板中央部分にコネクタを実装すると嵌合作業が難しくなる場合がある。
有効嵌合長を確保しながらコネクタの低背化が難しい。 垂直嵌合コネクタに比べ、有効嵌合長を確保しながらコネクタの低背化が比較的容易と言える。
挿入力の高いコネクタの場合、組立時に基板への圧力が加わりやすい。 垂直嵌合コネクタと比べ、組立時に基板への圧力が加わりにくい。

 

 

I-PEXコネクタラインナップ紹介


I-PEXのコネクタには水平嵌合、垂直嵌合に対応した同系列の小型コネクタラインナップが存在します。例えば薄型の筐体が求められるパネル基板側には水平嵌合コネクタ、基板中央部への高密度な実装が求められる基板側には垂直嵌合コネクタを使用するなど、様々な用途や設計条件に合わせて嵌合方向の選択が可能です。

 

細線同軸コネクタ

  • 0.4 mmピッチ, EMCシールドカバー&メカニカルロック付き細線同軸コネクタ

水平嵌合タイプ: CABLINE®-CA II
垂直嵌合タイプ: CABLINE®-UM

  • 0.4 mmピッチ、細線同軸コネクタ

水平嵌合タイプ: CABLINE®-CA
垂直嵌合タイプ: CABLINE®-SS

  • 0.5 mmピッチ、細線同軸コネクタ

水平嵌合タイプ: CABLINE®-VS
垂直嵌合タイプ: FPL™ series

 

FPC/FFCコネクタ
 

  • 0.5 mmピッチ、グランド端子&オートロック付き、FPC / FFCコネクタ

水平嵌合タイプ: EVAFLEX® 5-SE-G HT
垂直嵌合タイプ: EVAFLEX® 5-SE-G VT

  • 0.5 mmピッチ、オートロック付き、FPC / FFCコネクタ

水平嵌合タイプ: EVAFLEX® 5-SE
垂直嵌合タイプ: EVAFLEX® 5-SE VT